幸せは 得るものでなく…

「これって、何て読むんですか？」と、震える声で、隣の席の人に聞かれた。

「糸へんに利益の益だから、”えき”とか、”え”と発音するのかな？」
「・・・。」
「一昨日、引き継ぎを引き受けておきながら、この文字の読みは、忘れていた。
　僕が調べておけばよかったんだ。ごめん。後で調べておくよ。
　まあ、今は、次のことに集中した方がいいと思うよ。」
「そうですよね…。」と、質問の答えが聞けずなのか、暗い表情。

昼休みがあるような、ないような職場で、空いた時間に書棚の広辞苑を用いて、
予想される発音で調べてみた。

「（”えき”かな？　”え”かな？　記憶をたどり、おそらく”い”だろうな？）」と思った。
「ビンゴ！」　でも、気持ちは重い。

その文字の発音はできなくても、意味だけは知っていたから…。

 

ちゃんと読めること。そして、きちんと自分の仕事を進めること。
のめり込まず、でも、丁寧さは失わず。同情ではなく、プロの仕事をすること。

これらは、基本中の基本だった。

「この文字は、”い”と読むんだ。広辞苑で調べたから確かだよ。」
「そうですか、・・・。」
「まあ、これも仕事のうちだから、学べたことを大切にすればいいと思う。」
「・・・。」

余計な事を言ってしまった。

 

格好いいことなんか、言えなかった。

「（でもね、それぞれが、自分の全力を出しているのだから、

学んでいく姿勢が、救い、希望となると思うんだ。）」

 

こんなことは、僕が言わなくたって、わかっているはず。
お互い、プロだもんね…。

 

「（でも、今の世の中、ちょっと不安や絶望が増えているよね。
　僕らは、何ができるんだろうか？　今は答えられないけれど、・・・。
　まずは、自分達のできることを一つ一つキチンとすることなんだろうな？）」

 

だから、昨夜は、ちょっと深酒をしてしまった。反省。（毎度のことだけど、苦笑）

 

「幸せは　得るものでなく　気付くもの、感じることと　僕は学んだ。」